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呂布威勢大いにして、曹操陣中に囲まれる

「それがし今日、山上より眺めましたところ、濮陽の西に呂布の砦があり、兵もたいした数とは見えませんでした。今夜はやつらの武将も我が軍の敗戦に気を良くして必ずや備えを怠るでしょう。この機に兵を出して討つべきと存じます。もしその砦を手に入れることが出来れば、呂布の軍勢が狼狽するのは目に見えています。これこそ上策と存じます」
曹操はこの言を取り入れて、曹洪(そうこう)、李典(りてん)、毛かい(もうかい)、呂虔(りょけん)、于禁、典韋(てんい)の六将を従え、精鋭兵を選りすぐり、闇夜に紛れて西の砦を目指した。

 

一方、呂布は陣屋において将兵をねぎらったが、陳宮が言うのに、
「もし西の砦に曹操が夜討をかけてきたらどうなさいますか」
「奴は今日負けたばかりだ。出てくる気力もあるまい」
「いやいや、彼は奇策にたけた者。不意を討たれぬよう用心が大切だと思われます」
呂布は高順(こうじゅん)、魏続(ぎぞく)、侯成(こうせい)に命じて西の砦をかために行かせた。

 

さて、曹操は黄昏時に軍勢を率いて西の砦に至り、四方から突入した。守備の軍勢は敵わず四方へ逃げ散り、曹操は砦を奪い取った。深夜に至って高順がようやく軍を率いて到着し、まさに攻め入ろうとした時、曹操自ら軍勢を率いて討って出て、両軍入り乱れての戦いとなった。夜が明ける頃、真西の方に太鼓の音が轟き、呂布が自ら援軍を率いて到着したとの知らせがあった。曹操が砦を棄てて逃げれば、背後から高順、魏続、侯成が追ってきて、正面からは呂布が軍勢を率いて現れる。于禁、楽進の二将が呂布に立ち向かったが敵うはずも無く、曹操は北を目指して逃げた。そこへ山かげから一隊の軍勢がどっと打って出てくる。これは張遼、臧覇の率いる勢力であった。曹操は呂虔、曹洪に命じてこれを防がせたが効果が無く、更に西を目指して馬を飛ばす。と、またもたちまち一隊の人馬が現れ、退路に立ちはだかった。曹操の諸将が必死に戦ううちに、曹操は囲みを破って駆け抜けようとしたが、矢が雨のように飛んできて、進むことも退くことも出来ない。
「誰か助けてくれる者はいないか」
と大声に叫べば、乱戦の中から一人の大将が躍り出た。これぞ典韋である。
「殿、ご案じなさるな」
と一言、ひらりと地面に下り立ち、戟を鞍に掛けると、短戟十数本を握り、共の者に、
「賊めらが十歩の所まで来たら知らせろ」
と言うなり雨と降り注ぐ矢の中に突きいった。
呂布の手の者十数騎が後ろに迫った時、共の者が、
「十歩」
と叫ぶと、典韋は言った。
「五歩まで来たら言え」
「五歩」
その声とともに、典韋は目にも止まらぬ勢いで短戟を飛ばせて、一戟一殺、一本も違うことなくたちまち十数人を倒せば、他の者どもは恐れおののいて逃げ去った。典韋はしてやったりと馬に飛び乗り、一対の戟をきらめかせ、呂布の将軍らを追い払った。そうして曹操を救い出し、諸将も次第に集まってきたので、血路を開いて陣へ帰ろうとする。と、たちまち背後にどっと鬨の声が上がって、呂布が追いかけてくる。
「曹操、逃げるな」
正に、逃げおおせたかと思ったものの、逃れがたき強敵が現れた、というところ。さて曹操の命はどうなるか。それは次回で。