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皇甫れき、賈く策を弄して李かくを孤立させる

「それは違うでしょう。董卓殿の強大なことは貴殿もよくご承知のところ、呂布が恩を仇で返して晒し首になりました。たとえ強大であったとしても、当てにするべきではないのはこれによっても明らかです。李かく殿は大将軍としてご一門ことごとく要職に就いておられる今、国恩の導きを申せましょうや。今郭は大官を奪いましたが、李かく殿は帝を奪われました。これのうちどちらが重要なことかは火を見るより明らかではござりませんか」
李かくは大いに怒って剣を抜き放ち、
「天子はわしを辱しめるために貴様をよこしたのか。手始めに貴様の首を落としてくれる」
と怒気あらわにしたところ、楊奉(ようほう)が、
「郭も倒せずにいる今、勅使を殺したりすれば、郭に挙兵の口実を与えるようなものです」
と諫め、賈くも極力宥めたので、李かくの怒りもいくらか収まり、その隙に賈くが皇甫れき(こうほれき)を外へ連れ出した。
「李かくは詔を足蹴にし、天子を弑して皇位を奪わんとするものぞ」
と皇甫れきが大声に叫ぶのを、側の者がたしなめた。
「今は言葉を慎まれい。身の破滅を招こうぞ」
と制すると、皇甫れきは逆に彼を責め、
「貴公も朝廷の臣下ではないか。賊に組するとは何事か。わしは李かくに殺されても思い残しはしない」
と散々に悪口を言って止めなかった。帝はこれをお知りになると、急ぎ皇甫れきを西涼へお帰しになった。

 

さて、李かくの軍勢の大半は西涼の者のであり、さらに羌族(きょうぞく)の加勢を受けていたが、皇甫れきは西涼の者どもの中に入って、
「李かくは謀反人だ。奴に従うものは逆賊となって、必ず辛い目にあうぞ」
と言いふらした。多くの西涼の兵士達はその言葉に動かされ、士気は次第に緩んできた。李かくはこの皇甫れきの言葉を耳にして大いに怒り、将の一人に追跡を命じた。しかし、彼は皇甫れきが忠義の士であることを知っていたので、深くは追わず立ち帰った。賈くもひそかに羌族の者どもに言うのに、
「天子はお前達の忠義と、長い間の軍陣の苦労を思い、お前達を故郷に帰すようにとの密詔を下された。追って重い恩賞にあずかるだろう」
羌族の者は李かくが恩賞を行わないことを不満としていたので、賈くの言葉を信じて全員都を引き揚げた。
賈くはまたひそかに献帝に奏上して、
「李かくは貪欲で思慮に欠けた男でございます。近頃兵士の脱走が多く、怖気づいておりますゆえ、高い官職をお授けになれば飛びついて参りましょう」
献帝は詔して李かくを高位の位に任ぜられた。