三国志演義.com - やさしく読める三国志演義 -

張飛呂布の馬を盗み 劉備曹操を頼って落ちのびる

そのうち呂布のもとに、部下が張飛に馬を奪われたという報せが届いた。呂布は烈火の如く怒り、ただちに出陣し張飛に挑んだ。劉備はこれを聞いて大いに驚き、慌てて兵を率いて出陣した。劉備は馬を進めて、
「呂布殿、この様子はいったい何事であられるか」
「わしが紀霊との戦を収めて救ってやったのを忘れたか。なぜわしの馬を奪ったのだ」
「わたくしには身に覚えがありません」
「貴様は張飛にわしの馬を奪い取らせておきながら、なおしらを切るのか」
すると張飛が馬を乗り出し、
「確かに、お前の馬を取ったのは俺だ。貴様は俺が馬を取ったといって怒っているが、貴様こそ俺の兄貴の徐州を奪い取ったではないか」
呂布は何も言わずに張飛めがけて馬を駆け、張飛も槍をもって迎え撃った。二人は百合余り戦ったが、一向に勝負がつかない。
一方劉備は、呂布の軍勢がじりじりと囲みにかかっているのを見て、急いで軍を収めて城に入った。そうして張飛を呼んで叱り付け、
「この度のことはそなたが馬を奪ったりしたので起こったのだ。その馬はどこにおいてあるのじゃ」
と馬のいる場所を聞き出すと、呂布の陣屋に人をやり、馬を返すから兵を退いてくれるよう頼んだ。呂布は承知しようとしたが、陳宮から、
「この機会に劉備を殺しておかねば、後々苦しめられることになるでしょう」
と言われて思い直し、ますます攻撃を強めた。劉備は糜竺(びじく)、孫乾(そんけん)と協議し、孫乾がこう言った。
「曹操(そうそう)は呂布を大変憎んでおります。この際、城を棄てて許都へ逃れ、いったん曹操のもとに身を寄せ、兵を借りて呂布を討伐するのが上策と存じます」
「誰か先手になって囲みを破る者はおらぬか」
と劉備が言うと、張飛が名乗りを上げた。

そこで劉備は張飛を先手に、関羽(かんう)を後詰に命じ、深夜囲みを破って落ち去った。

 

さて許都に逃れた劉備は、城外に軍勢を留めると、孫乾を使者に立てて曹操に事情を説明した。すると曹操は快く劉備を招いた。劉備は関羽、張飛に軍勢を任せると、糜竺、孫乾を伴って曹操を訪ねた。すると曹操は宴席を設けて劉備らをもてなし、日が暮れてから送り出した。
その後、荀ケ(じゅんいく)が、
「劉備は英雄でございます。今のうちに亡き者にせねば、この先必ずや障害となるでしょう」
と言ったが、曹操は答えなかった。荀ケが退出すると郭嘉(かくか)が来た。
「荀ケはわしに劉備を殺せと勧めたが、おぬしはどう考える」
「それはなりませぬ。殿は信義をもって英雄豪傑をお招きになっておりますが、まだ参らぬ者がいる状態でございます。劉備は英雄と名高い人物です。今、こうして殿を頼ってきた彼を殺したりすれば、天下の智謀の士は御前に馳せ参じるのに躊躇するようになるでしょう。禍根を一つ取り除き天下の人望を失ってよいものか。そのところをよくよくご考慮くださいますよう」
「よくぞ申した。それこそわしの思っていた通りじゃ」
と曹操は大いに喜んだ。