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劉備敗れて落ち延び 一夜の宿にて女の肉を喰らう

劉備(りゅうび)は関羽(かんう)、張飛(ちょうひ)とそれぞれに陣を与え、自らも兵士を率いて後詰をした。そこへ関羽の陣地には張遼(ちょうりょう)らが、張飛の陣地には呂布(りょふ)が自ら襲い掛かれば、関羽、張飛はそれぞれ迎え討って出た。ところへ呂布が軍を分けて劉備の背後から襲い掛かったので、劉備軍は総崩れとなり、劉備は単身落ち延びた。
呂布が劉備の家に駆けつけると、糜竺(びじく)が出迎えて、
「大丈夫たる者は人の妻子を殺めずと申します。今呂布将軍と天下を争うのは、曹操(そうそう)しかおりません。劉備殿は呂布将軍に戟を射て一命を救っていただいたご恩を片時も忘れたことがなく、この度のことは曹操に迫られてやむなく加勢したに過ぎません。何卒お見逃し下さるようお願い申し上げます」
「わしと劉備は兄弟の間柄だ。妻子に無体を働こうなどとはせぬ」
と、劉備の家族を守らせた。
この時、孫乾(そんけん)、関羽、張飛はそれぞれ落ち延びた。

 

さて、劉備はただ一騎で逃れ出てさすらっている内に、一人の者が追いすがってきた。見れば孫乾である。
「この先どうしたものか」
「しばらく曹操の元に身を寄せて、機会を見て再挙を計るのが至当と存じます」
劉備は孫乾の言を聞き入れて、許都を目指した。
ある日、一件の民家の扉を叩き、宿を求めたところ、快く迎え入れられた。主人は劉備をもてなそうと狩に出たが、何も獲れなかったので、己の妻を殺してその肉を献じた。劉備が、
「これは何の肉であるか」
と尋ねたが、主人は、
「狼の肉でございます」
と言うので、それを信じて腹いっぱい食い、寝床に入った。ところが翌朝、厨に一人の女の死骸が転がっているのを見つけた。見れば、腕の肉がすっかり削ぎ落とされている。主人に問うてみれば、昨夜食ったのがその殺された妻の肉だったと言う。劉備は酷く悲しんで、涙ながらに馬に乗り、厚く礼を述べて立ち去った。
そこへ曹操の軍勢が砂埃を立て近づいてきた。劉備は曹操に対面し、城を失い、二人の兄弟とも別れ、家族は呂布の手に落ちた事を事細かに語った。さらに昨晩狩人の宿を借りた際、主人が己の妻を殺してその肉を食べさせてくれた話をすると、感じ入った曹操は孫乾に金百両を与えて彼に届けさせた。

 

さて、曹操が物見の者を出して呂布の様子を探らせると、
「呂布は陳宮(ちんきゅう)らと共にあたりの山賊と手を結び、丞相の領地に押し寄せております」
とのこと。曹操はただちに曹仁(そうじん)に兵三千を与えて落とされた劉備の城を攻略に向かわせ、自らは大軍を率いて、劉備と共に呂布討伐に向かった。