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劉備畑を耕し 曹操英雄を論じる

さて董承(とうしょう)らがそれは誰かと尋ねれば、馬騰(ばとう)が答えたのは他でもない、劉備(りゅうび)のことであった。
「先日の巻狩にて曹操(そうそう)が一同の万歳をうけおったおり、関羽(かんう)が曹操に斬りかかろうとして、それを劉備(りゅうび)殿が視線で抑えたのを、それがししかと見届け申した。あの時は曹操の腹心の者が多かったのでやむを得ず関羽をと止めたに違いがありませぬ」
一同はようよう話し合い、翌日董承が劉備の住居を訪れた。そして酒でもてなそうとする劉備に言った。
「先日の巻狩のおり、関羽殿が曹操を殺そうとしたのを、止められたのは何故にござる」
劉備は顔色を変えて、
「なんと、貴殿はお気づきになられたか」
「余人は気づかずとも、それがしはしかと拝見いたしましたぞ」
「弟は曹操の言語道断の振る舞いに怒りを覚えたのです」
董承は袖に顔をうずめて泣き出した。
「朝廷の臣下がみな関羽殿のようであったら、天下の乱れもないでしょうに」
そして懐より詔を取り出して劉備に見せた。更に連判状を示されれれば、董承を初めとする六名の名が連なっている。劉備も記名し、董承へ返した。

 

劉備はこれより曹操の疑いを避けるため、裏庭に畑をつくり、自ら耕した。関羽、張飛(ちょうひ)は、
「天下の大事も顧みず、そんな下らぬことを始められるとは、兄者、どうしたことでござるか」
と不審げな顔をしたが、劉備は取り合わなかった。

 

ある日、関羽と張飛が出かけており、劉備が一人で裏庭で野菜に水をやっているところへ、許ちょ(きょちょ)と張遼(ちょうりょう)が物々しい装いでやってきた。
劉備は大変驚いたが、仕方がなく二人に従って曹操の館に罷り出でた。すると曹操が笑いながら、
「畑仕事はなかなか難しかろうな」
と言う。劉備はようやく安心して、
「暇つぶしにやっているのです」
「実は今日は貴公をお招きして一献差し上げようと思ったのじゃ」
劉備はこの話にようやく胸をなでおろして勧められるままに酒を飲んだ。
宴たけなわとなった頃、にわかに曹操が尋ねた。
「貴公は久しく各地をめぐられたが故、さぞかし当世の英雄をご存知であろう。ひとつ教えて下さらぬか」
「わたくしのような俗物には、とても英雄の分かろうはずがありません」
「ご謙遜には及ばぬぞ」
「わたくしも天下の英雄には、まだ会ったことがございませぬので」
「会ったことがなくとも、名前ぐらいは聞いておられるだろうに」
と、曹操は一向に引かない。

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