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張飛怒って監督官を鞭打ち、劉備官職を棄てる

劉備が県に着任してから四ヶ月にもならないうちに、黄巾賊の平定で軍功を挙げ、地方官に任命された者のもとに都から監察官がやってきて、不適切な者を役職から外すことになった。劉備もその審査の対象であった。そうして監察官が視察に回ってきた。
劉備は丁重に監察官を出迎えた。しかし監察官は鞭の先を軽く動かして見せただけで馬から下りようともしない。
関羽と張飛はその無礼な仕草に怒りを覚えたが、劉備の手前我慢した。
宿舎に着くと、監察官は正面に向かって座り、劉備は庭に立って監察官の言葉を待った。
しばらくして、ようやく監察官が訪ねた。
「そのほうはどのような功績によって現職に就かれたのか」
「わたくしは漢皇室の血筋で、黄巾賊討伐で多少の功績をあげたことでこの職に任ぜられたのでございます」
それを聞くと、監察官は怒鳴り声を上げた。
「その方は皇族を偽り名乗り、ありもしない功績を申し立てる気か。朝廷が我ら監察官を派遣したのは、まさにその方どものような嘘偽りを申す者を処分せよとのご主旨なのじゃ」
劉備は頭を低くし引き下がり、役所に帰って役人に相談すると、
「監察官は賄賂を要求しているのでございます」
との回答が返ってきた。
しかし劉備は領民から私財を巻き上げたことなどなく、賄賂など出せるものも無い。
翌日、監察官は県の下役人を引っ立てると、劉備が領民を苦しめているという文章を無理矢理書かせようとした。
劉備は放免を請う為に何度も監察官の宿舎に出向いたが、そのたび門番に阻まれ、目通りさせてもらえなかった。

 

さて、張飛はやけ酒を何杯も飲み、馬に乗って監察官の宿舎の前を通りかかると、年寄りの領民が五、六十人、門前で大声を上げて泣いている。
わけを尋ねると、年寄りたちが口々に訴えた。
「監察官が県のお役人を責めたてて、劉備様に無い罪を着せようとしているのです。わたくしどもがお許しを願いにやってきましたところ、中に入れてくれないばかりか、反対に門番に殴られたのでございます」
それを聞くと張飛は怒り心頭、門番を張り倒し宿舎の奥へ駆け込んだ。
すると監察官が正面に座り、役人が縛られて地面に転がっている。
「やい、人民を食い物にする盗人野郎め」
と大声で一括すると、監察官が口をきく間も与えず、髪の毛を掴んで外へ引きずり出した。
そのまま県役所の前まで引きずってきて馬をつなぐ柱に縛りつけると、柳の枝で監督官の両の腿を力任せに打ちすえた。
あまりに強く打ちすえるので、柳の枝を十何本も叩き折ってしまうほどだった。

 

一方、劉備はどうしたものかと頭を抱えていたところに、役所の門前が騒がしくなったので、周りの者にたずねると、
「張飛様が誰かを縛って門前で打ちすえているのでございます」
という返事。
劉備が急いで門前に出てみれば、縛られているのは監察官である。驚いてその訳を尋ねれば、
「こんな不届きな野郎は、叩き殺してやらねば腹の虫がおさまらん」
と張飛。
監察官は悲鳴を上げて、
「劉備殿、命ばかりはお助けください」
劉備は急いで張飛を叱って手を止めさせたところへ、関羽も駆けつけてきて言うには、
「兄者は数々の大功をたてられながら、与えられた恩賞はたかが一介の小役人。その上監督官の無礼極まる態度。それがしが思うに、ここは兄者のいるべきところではない。いっそ、こやつを殺し、役職を棄てて故郷へ帰り、改めて立身の手段を考えようではありませんか」
それを聞いて劉備は、監督官に向けて、
「貴様如き不届き者は本来であれば生かしては置けぬところだが、今日のところは命だけは助けてやる」
と言って、関羽、張飛と共にその地を去った。

 

監督官は帰ってからこの件を上司へ報告し、三人には追っ手が差し向けられた。
三人は代州の劉かい(りゅうかい)の元に身を寄せた。劉かいは劉備が漢皇室の血筋であることを知って彼等を館に匿った。