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于吉 昼夜姿を現し 孫策 大いに怒る

その夜、激しい雨風となり、于吉の屍が姿を消した。孫策が怒って屍の番をしていた兵士を斬ろうとしたとき、にわかに一人の者が広間から近づいてくるので、目を凝らしてみれば于吉の姿である。孫策は怒り心頭、剣を抜いて斬りかかろうとしたが、そのままばったりと地面に昏倒した。周囲の者が慌てて寝室に抱え込むと、半刻ばかりしてようやく息を吹き返した。母である呉太夫人(ごたいふじん)が見舞いに来て、孫策に言った。
「そなたは罪もない仙人さまを殺したりしたので、罰があたったのですよ」
孫策は笑って、
「わたくしは子供の頃より父上のお供をして出兵し、人を物か何かのように斬り殺して参りましたが、罰など当たったことがありませんでした。この度于吉を殺したのは、人々が邪教を信仰するのをふせぐため、災いの根を絶ったもの。罰を受ける道理がございませぬ」
夫人は熱心にお払いを勧めたが、孫策は笑って相手にしないので、周囲の者に命じて密かに厄祓いの儀式を執り行わせた。
その夜孫策が寝ていると、突然怪しげな風が起こり、燭台の灯が点滅し、于吉が孫策の寝台の前に立った。孫策が、
「わしは日頃から妖怪を退治し、天下を沈めようとしているのだ。貴様は亡者と成り果てながら、尚わしに近づくとは不遜であろう」
と言い放つと、枕元の剣をとって投げつけた。すると于吉の姿は掻き消えたように見えなくなる。呉太夫人はこの話を聞いて、なおのこと心を痛めていた。孫策は安心させようと、病の体をおして母親の前に出た。すると夫人が、是非にも厄祓いに行くようにと熱心に勧めるので、孫策も無下には断れず、嫌々ながら輿に乗って寺に行った。道士が迎え入れ、香を焚くように言うと、孫策は香を焚くまでは行なったものの、祈ろうとはしなかった。するとたちまち香炉の煙がわだかまり、于吉の姿が現れた。孫策は怒って唾を吐きかけ、その場を立ち去った。すると今度は于吉が門のところに立って、じっと自分の方を見据えている。孫策はますます怒って、腰の剣を抜くなり于吉に向かって投げつけた。すると剣は一人の者に当たり、その者は脳天をぶちまけてばたりと倒れた。皆が見れば、これぞ先日于吉の首を刎ねた兵士であった。孫策がこれを担ぎ出して葬るよう命じてそこを出ようとすると、またも于吉が門を入ってくるのが見える。
「この寺も妖怪の棲家だな」
と言い、武士五百名に命じて寺を取り壊させた。その間も于吉の姿がちらほらと現れ、孫策を大いに怒らせた。