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孫策 天命尽き 孫権 父兄の大業を継ぐ

孫策が怒って館に戻ると、門前に于吉が立っているのが見えたので、館に入らずそのまま城外 陣屋を構えた。袁紹に加勢して曹操を討つための援軍である。しかし、諸将は口を揃えて言った。
「殿は今安静にならる時でございます。まずはご全快を待って出陣なされても遅くはござりますまい」
しかし孫策はこれを退け、その夜は陣屋に寝た。するとまたまた于吉が現れたので、夜通し怒鳴り続けた。翌日、呉夫人より館に戻るよう言付けがあったので、帰って母親に対面すると、夫人は孫策の変わり果てた相貌に涙を流した。孫策は慌てて鏡を手にとって己の顔を映してみると、なるほど、げっそりと頬がそげ、いかにも弱々しい様子である。するとまたもや于吉が鏡の中に立った。孫策は鏡を叩くと、一言叫んで全身の傷口が張り裂けて倒れ付した。そのまま昏倒した孫策を夫人が寝所に運び込ませれば、しばらくして目を開き、
「わしはもうだめだ」
と、と息を吐いた。そして張昭(ちょうしょう)ら大将と弟の孫権(そんけん)らを枕元に呼んで言った。
「今は乱世だ。そなたたちは弟をしっかりと支えてやってくれ」
と大将らに頼み、印綬を孫権に与えて、
「軍を率いて勝利しようとすれば、わしはそなたより力を発揮してみせるが、賢臣を用いてその能力を十分に活用することとなれば、わしはそなたに敵わぬ。父兄の創業の苦難を肝に銘じ、よくよく励んでくれよ」
と言った。孫権は慟哭して印綬を受けた。孫策はさらに母に向かい、
「わたくしはもはや寿命も尽き、この先、母上にお仕えすることができませぬ。これからは孫権をよくよくお導きください。また、父上の頃からの旧臣にもお目をかけくださりませ」
呉夫人は泣きながら、
「孫権はまだ若いから、大事を任せることができますまいに。この先どうしたものだろう」
「孫権は私の十倍も優れております。もし国内のことで難しいことがあれば張昭にはかり、国外のことで難しいことがあれば周瑜(しゅうゆ)におはかりくだされば結構です。今ここに周瑜が居合わせておらず、直々に頼みおけぬのが残念にございます」
と言い、目を閉じてこの世を去った。享年わずか二十六歳であった。
孫策が息絶えると、孫権はその枕元に泣き崩れたが、張昭に、
「国家の大事を治められなければなりませぬ」

と言われて、涙を収めた。
張昭は葬儀の支度を整えると、孫権には広場に出てもらって、文武百官の祝賀を受けさせた。孫権は生まれつき角張った顔立ちで口が大きく、碧色の瞳に紫の髭をしていた。かつて人見の得意な者が孫家の兄弟たちを見て、人に言ったことがある。
「わしは孫家の兄弟たちを全員見たが、それぞれ才能に溢れているものの、天寿を全うする者はいない。ただ一人、孫権だけは帝王の位に登る相をしている。また、長寿で他の兄弟たちの誰よりも長生きするだろう」
と。