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董卓帝を護り宮中に戻り、廃立を申し立てる

ところが帝のご一行が数里も行かないうちに、突如大軍が殺到してきた。官吏たちは顔色を失い、帝も大いに驚かれた。袁紹が馬を乗り出して何者かと問えば、一人の大将が飛び出してきて問いには答えず、
「天子はどこにいらっしゃるか」
と荒々しく叫んだ。
帝が声も出せずにいるところ、陳留王が凛として質問した。
「貴様は何者か」
「西涼の監察官董卓(とうたく)」
「貴様は陛下を守護に参ったのか。それとも陛下を奪いに参ったのか」
「守護する為に参った次第」
「ならば、天子がここにいらっしゃるのに、なぜ馬から下りないのか」
董卓慌てて馬から下りて平伏した。陳留王は董卓にねぎらいの言葉をおかけになり、始終落ち着いて対応された。董卓は内心感心すると共に、この時既に小帝を廃して陳留王を帝に昇らせようとの野心を抱いたのであった。
帝はその日の内に宮中にお戻りになり、何太后と抱き合いお二人して激しくお泣きになった。

 

さて、宮中を点検してみると伝国の玉璽(皇帝の用いる印章)が無くなっていた。董卓は兵を城外に陣取らせ、毎日武装した兵士を率いて市内を我が物顔で回った為、人民は生きた心地がしなかった。また、彼ははばかることなく皇居に出入りした。
袁紹と王允に「董卓は邪心を持っているから早めに始末した方がいい」と進言する者がいたが、相手にされなかった。
董卓は何進兄弟の部下だった者を己の軍に引き込み、腹心の李儒(りじゅ)に問いかけた。
「わしは今上陛下を廃して陳留王を帝に立てようと思うが、どうだ」
「今朝廷には力あるものがおりません。この機を逃すべきではないでしょう。明日百官を集めてこのことを告げ、従わない者は斬って棄てれば天下の大権を握られることでしょう」
董卓は翌日百官を集めて、
「今上陛下は惰弱で、陳留王こそ聡明でまさに帝位に上られる方とお見受けする。我らは帝を廃して陳留王を新帝に立てようと思うが、文句のあるものはおるか」
その時、一人の官吏が進み出て、大声に叫んだ。
「ならぬ、ならぬ。貴様は何の権利があってそんなことを言い出すのだ。簒奪(君主の地位を奪取すること)の心ありと見受けたぞ」
董卓が見れば、荊洲(けいしゅう)の監察官丁原(ていげん)である。董卓は
「わしに従わぬ者は生かしておかぬぞ」
と怒鳴り、丁原を斬ろうとした。この時李儒は丁原の後に威風凛々とした男が矛を手に控えているのを見た。これぞ丁原の養子で姓は呂(りょ)、名は布(ふ)、字は奉先(ほうせん)という者。武名名高い猛将である。李儒は慌てて董卓を止めて、日を改めて議論することを提案して、百官はそれぞれ引き取った。