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呂布連環の計に陥り、貂蝉董卓の物となる

「これについては理由があります。こんな往来ではお話も出来かねますから、まずは拙宅までお越しくだされ」
と王允。呂布を案内して館へ通すと、挨拶もそこそこに本題に入る。
「呂布様はなぜそれがしのような年寄りをお疑いになるのです」
「貴殿が貂蝉を董卓様の元へ送ったとの知らせがあったのです。これは何故ですか」
「おや、呂布様はご存知でなかったのですか。昨日、董卓様がそれがしに御用があるということでささやかな宴会でもっおもてなししたところ、董卓様はお酒をお召し上がりになりながら『貴公は貂蝉とやらを我が息子の呂布にくれると約束したとか。実は貴公が心変わりされるといけないと思い、わしからもお願いに上がったのじゃ。この機にその貂蝉とやらに引き合わせてもらいたい』とおおせられるので、貂蝉を呼んでご挨拶させました。すると董卓様がおっしゃるには、『今日は吉日。これゆえに早速わしが連れて帰って、呂布に与えることにしよう』とのこと。董卓様直々の仰せにそれがし如きが嫌とは申せませましょうか。心中ご察し下され」
「これは早とちりをして申し訳ありませんでした。王允殿、それがしの思い違いであった。明日改めてお詫びにお伺いいたします」
「娘にもささやかながら嫁入り道具などもございますゆえ、いずれ呂布様の元へ参りましたら、お届けしましょう」
呂布は礼を言って帰っていった。
翌日、呂布は董卓の様子を伺っていたが、何の音沙汰も無い。侍女達に様子を聞いてみると、
「昨夜にお連れした新しいお嬢様とおやすみのまま、まだお目覚めになりません」
呂布は冷や水をかけられた気分になり、ひそかに董卓の寝室の裏手に忍び込んだ。その時、貂蝉は起きていて髪を梳いていたが、呂布が覗いているのに気が付いたので、いかにも悲しげな風貌で目じりをそっと拭って見せた。呂布はその姿を見て広間に戻ると、董卓はすでに起きて広間に座っていた。呂布が来たのを見て、
「外に異常は無いか」
はっ、と答えて、呂布は董卓の傍に控えた。
董卓が食事をする間に、呂布がひそかに辺りをうかがうと、御簾の中を一人の女が行ったり来たりしながらこちらをうかがっている気配が伝わった。ついに御簾から顔を少し覗かせて、眼で媚を送ってくる。呂布は貂蝉と気がつくと心ここにあらずといった様子となった。董卓は、
「そちは用が無ければ下がっておれ」
と言うので、呂布は暗い顔で退出した。

董卓は貂蝉を手に入れてからというもの、彼女に没頭し政務を省みようとしなかった。董卓がたまたま軽い病にかかった時、貂蝉は夜も寝ず一心に看病しつくす芝居をしたので、董卓はますます貂蝉を可愛がった。
呂布がある日見舞いに来ると、ちょうど董卓が眠っているところだった。貂蝉は寝台から身を乗り出し、自分の手で自分の胸を指し、また董卓を指差してはらはらと涙を落とした。呂布がこれを見て嫉妬の思いに駆られているとき、董卓が眼を覚ました。見てみれば呂布が貂蝉を見つめている。董卓は、
「貴様、わしの可愛がっている女に手を出すつもりか」
と大いに叱咤した。そして控えの者を呼んで呂布を追い出すと、以降彼を出入り禁止とした。